変身

「今朝、コウセン・ハンダがなにか気掛かりな夢から眼をさますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な蝋人形に変わっているのを発見した。」………変身。。。

 朝起きるとどうも様子が変なのだ。起き上がろうとしても体が動かない。寝返りをうとうとしても横に姿勢を変えられない。うとうとから脱して、ようやく事情が呑み込めてきた。腰だ。腰がやられている。腰がギックリ腰状態になっているのである。嗚呼〜何たるざま。

 老体や 起きて気がつきゃ ギックリ腰。。最低。

 2年前に本物のギックリ腰を味わったが、あれは不用意にしゃがみ込んだとき襲ってきたものだった。ピシッと腰部に不気味な音が走り、そのままヘタヘタと床に這いつくばってしまったっけ。。

 今回のやつは違う。睡眠中に襲ってきていたのだ。一体またどうして?Hな夢でも見て張り切りすぎたか?いや、そんなことはない。記憶に無いぞ。無理な姿勢で寝ていたか?いや、それも違う。最近、寒いのでねぞぅはいいはずだ。いやはや、一体なんでこんなザマに。。。

 自分の意志通りに体が動かせないというのは、本当につらいものだ。——老いの自覚とは、自身の持つ身体イメージと事実としのて身体との距離感としてやってくる。老いは、まさしくその心身乖離の矛盾なのだ——。うぅぅ。腰が。吉本隆明を気取って偉そうなことをうそぶいてみても腰は治らん。何と思索は身体に対し無力なのか。。こういうときは暖かいものでも飲むに限る。

 会社に欠勤を電話連絡したあと、ヌースビーズ400粒のベルトを腰に巻き、おそるおそる階下へとコーヒーを飲みに行く。嗚呼、何てこった。すべてが老人のように事が進む。とぼとぼと台所をうろつき、震える手でコーヒーパックをつかみ、曲がった腰つきでポットのお湯を注ぐ。。

「ばあさんや、今、何時だい?」
「山形やの海苔だよ。」
「じいさんや、今、何時だい?」
「山形やの海苔だよ。」

懐かしのCMが一瞬、脳裏をよぎる。ふと自分を見ると格好もよくない。綿入りのちゃんちゃんこを着てるではないか。腰が回せないのだから、脱ぐこともできない。今日は1日、このちゃんちゃんこを着て、曲がった腰で、とぼとぼと活動しよう。老いても尚、ぬうす。ぬうすは死なず。。。うぅぅぅ。