これぞハリウッド映画の神髄

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「キングダム・オブ・ヘブン」という映画を観て来た。別に観たかった作品ではない。うちの奥さんがイスラム好きなので、何の気なしに同行しただけだったが、得てして、こういうときには面白い作品にブチ当たるものなのだろう。この作品、びっくりした、とまではいかないまでも、なかなかいい映画だった。

 作品自体は十字軍とサラセン軍の戦いを中心に展開する歴史スペクタクルものなのだが、何よりも、グラディエーターで再びハリウッドに歴史絵巻ものブームを作ったR・スコット監督の映像手腕が見事だった。主人公の心理描写や、作品の主題の表現には難があったが、この作品は純粋にスペクタクル作品として楽しむべきだ。やはり、R・スコットはこの手のものを撮らせたら今はピカ一な監督だろう。ヴォルフガング・ペーターゼンの「トロイ」やオリバー・ストーンの「アレクサンダー」よりも数段、素晴らしい出来映えだった。こういう巨費を投じたハリウッド大作の逸品は是が非でも映画館で観るべきだろう。特に後半のサラディン率いるサラセン軍が聖都エルサレム奪回に向けて攻撃を仕掛けるシーンは超圧巻。今までに観たどの歴史スペクタクルものよりも迫力があったように思う。

 物語の筋を説明すると長くなるので控えるが、とにかく、この映画を観る前に十字軍の歴史について少し調べておくのが賢明。映画の舞台は第2回十字軍と第3回十字軍のちょうど間の時期が設定されている。あと、イスラムの英雄サラディンについても少しチェックしておくといいかもしれない。個人的には主人公のバリアン(十字軍の勇敢な騎士ゴッドフリーの息子)よりも、サラディンの方がはるかに存在感があった。あとライ病に冒されたエルサレム王の役をエドワード・ノートンが演じているのだが、映画を見終わってgoogleで検索をかけるまでそれに気づかなかった。ノートン恐るべし。

 ヌース的なネタはあまりないが、台詞のやり取りで二ケ所ばかり印象に残る部分があったので少し触れておこう。一つはこの映画の主人公であるバリアンがサラディンに問うシーンだ。「あなたにとってエルサレムとは何か。」サラディンは答える。「それは無だ。」さらに、少し間を置いてから付け加える。「そして、すべてだ。」と。このシーンのサラディンが無茶苦茶カッコいい。「無でありすべてだ。」と一気に言わないところがニクイのだ。もう一つは、同じくバリアンと恋に落ちるエルサレム王の娘シビラがバリアンをベッドに誘うときの言葉がなかなかだった。「東洋では光は人と人の間を遮るものと言われているのよ。」そう言って、ろうそくを吹き消し、バリアンに腕を回す。西洋では光は神だが、東洋では光はむしろその逆の性格を持っている、ということだろう。光を対象として見ているうちは、西洋の神しかいない。光が見ることそのものになったとき仏が現れる。そこから合体が始まるってか。まっ、そういうことかな。

最後に余談だが、バリアン(オーランド・ブルーム)に弓を一切引かせなかったのは正解だった。指輪物語の第四部ではない。