3月 15 2016
黄金比のフロー
黄金比とは内分比と外分比を等しくする比率のことをいう。これを単なる物質空間の線分で考えても、その秘密は分からない。黄金比のイデアとは何なのか。それが問題だ。
神聖幾何学の伝統では、黄金比とは神が宇宙を創造するときに用いた比率とされる。神を一なるものとするなら、最初の分化に用いた比が黄金比だったというわけだ。これが1:1といったような均等な分割だったなら宇宙は生まれなかっただろう。均等は動きを消し世界を死滅させる。
真のバランスとは絶えず差異を孕みながら流動していく中にしか生まれない。黄金比とはそのジェネレーターのようなものなのだ。
ラカンはこの黄金比の中に本来あるべき自己と他者の関係を見た。すなわち、y/x=x/(x+y)。「わたし=xから見たあなた=yが、わたしとあなた(x+y)から見たわたし(x)と相等しくなる」ようなとき、そこに黄金比が生じるのだと。
わたしとあなたが一つになった視線とは超越者の視線であり、それは神の視線と言い換えてもいい。わたしのあなたに対する眼差しが、神のわたしに対する眼差しと同じものとなったとき、そこに黄金比が現れる。それは、わたし自身が神になることに他ならない。
ラカンはその場所を現実界と呼び、この現実界は「不可能なもの」だという。そして、人間はこの「不可能なもの」を対象a(幻想)に代理させ、そこで意味と欲望と夢を稼働させていく。
不可能なものはいつまで経ってもやってこない。達成された欲望は着古した衣服のように何枚も何枚も記憶の地層に積み重ねられ、目覚めることのない夢が永遠に続く。
果たしてこれは本当か―。
ラカンのこの黄金比の解釈を一体どれほどの人が理解しているだろう?一体、わたしから見たあなたとは何なのか?わたしとあなたとは何なのか?そして、そこからわたしを見る、とはどういうことなのか?そして、それはコーラ(容器)としてのプラトン立体とどのように関係しているのか。
少なくとも二つだけ確実に言えることがある。それは、わたしとあなたは均等に分割されたものではないということ。均等に分割されたわたしとあなたのような関係は、1:1の分割のように宇宙を死へとしか導かず、そのような関係の間には愛は成立しないということ。
そして、もう一つ。愛は決して二つのものが一つになるといったスタティックな力として働いているのではなく、流動するフローとしてあるということ。五芒星が作り出すあの黄金螺旋が描く無限の渦のように。
だから、現実界は不可能なものではない。それは必ず開く。フローの愛の名のもとに。
4月 19 2016
ナルキッソスとエコーのスピンオフ
言葉を受け取るとそこにはイメージが浮かぶ。一方、イメージが浮かぶとそこには名付けの衝動が起こる。水星の少年と金星の少女の間に繰り広げられるエロス的関係がここにはある。この恋愛体は人が生きることの中でシーソーゲームのように延々と反復しているが、一体、二人は何を望んでいるのか?
言葉とイメージの反復を裏で操っているのは、言うまでもなくこの両者の間にあるズレだ。このズレは他者と自己の間にあるズレと言い換えてもいい。というのも、他者は言葉としてやって来るものだし、一方の自己はいつも知覚と共に居るからだ。
他者と自己の間にあるこのズレによって、水星の少年と金星の少女の間に生まれている恋愛体は時に抗争体ともなり、数え切れない喜怒哀楽を人間たちの中に送り出してきた。
このズレの正体とは一体何か?ということについて、現代の思想家たちの結論は概ね一つにまとまっている。それは、僕らが「意味」と呼んでいるものだ。でも「意味」って何だ?
意味について考え出すと一気につかみどころのない感覚に襲われる。意味を言葉で表現しようとしても、結局のところ、言葉の中をグルグルと堂々巡りするだけだ。
「意味の意味とは存在である」と言ったのは確かハイデガーだったか。これが正しいとすれば、存在は言葉とイメージの間に埋もれているということになる。同じく、他者と自己の間にも。
そこで、また象徴的思考が訴えかけてくるわけだ。水星の少年と金星の少女の間に身を潜めているものは二人の亡き父と母に当たるものに違いない。そして、それは地球と月だぞって。そして、おそらく、このときの地球と月とは精神と物質と言い換えてもよい。
水星の少年が月を見つけ、金星の少女が地球に戻るとき、意味は存在へと生まれ変わり、そこに太陽が顔を出すことだろう。
アバウトだが、水星の公転周期と月の公転周期の比は円周率π、金星の公転周期と地球の公転周期の比は黄金比Φ、という関係がある。
これは言語は物質に円周率として関わり、知覚は精神に黄金比として関わっているということを暗示している。
意味の内部には円周率と黄金比に満たされた存在のめくるめく無限がある。
この二つが共同しあって生み出すものが黄金螺旋なのだ。
取り留めのない書き込みで申し訳ない。
By kohsen • 01_ヌーソロジー • 1 • Tags: ハイデガー, 円周率, 黄金比