アポリネールへのオマージュ

昨日、UPした絵について、ちょっと説明しておこう。

 これは2002年のヌースレクチャーのオープニングで使用していたものだ。作品名は「アポリネールへのオマージュ」。作家はシャガールである。シャガールの晩年は飛翔する少女のようなメルヘンタッチな構図と瞬発力を感じさせる色彩センスが特徴だが、初期はキュビズムに大きな影響を受けていた。この作品は、20世紀初頭、シャガールがロシアからパリに移った頃に描かれたものとされている。

 「アポリネールへのオマージュ」とあるように、この作品はきわめて象徴主義的なもので,他の象徴主義の作家同様、シャガールもカバラや錬金術に関心を示していた。中央に描かれたシャム双生児のような木彫りの人型は、アダムとイヴである。両者の合体は両性具有者=アンドロギュノスを意味している。イヴが右手に林檎をもっているのが分かるだろう。

 背景に描かれた赤と緑のコントラストを持つ円盤は、巡り巡る運命の輪、つまり、宇宙的時計の文字盤である。時計の巡りとともにアダムとイブは引き裂かれ、再び、一人の両性具有者と変身する。木偶の坊のように描かれたアダムとイブの姿は、破壊された宇宙的性愛の力を象徴している。カバラにいう器の破壊である。カバラの教義では、男女の関係は神と人間の地上的映し絵であり、この世界で男と女が分離して存在すること自体が、原罪の結果とされる。人間の努めは、この分離を再度、それ以前の完全な宇宙的合一の中へ立ち上げることとされる。それは、とりもなおさず、人間と神が合体することをも意味する。
 画面左下には矢で射ぬかれたハートがあり、その周囲には,アポリネールを初め、当時のシャガールと親交が深かったと思われる4人の人物の名が正方形状に並べられて書かれている。これらは火,地、風、水,という4大元素の象徴だ。

 カバラを始めとするオカルティズムの伝統は、このように、対立物の一致、天使的領域の顕現による、神と人間の融合、そこに暗躍する、4大元素の力、というように、「2」「3」「4」の法則を根底に持つ。当然、この法則性の中で神秘とされるのは始まりと終わりを結ぶ「5」の力である。「5」は「1」と同一視され、「1」〜「5」へと至る、5の循環は永遠に止まることはない。ヌース理論においても、それは同じである。