8月 27 2006
ナブラという名の竪琴
ヌースでは、無意識の主体は微小領域の中に息づいていると考える。いや、考えるというよりも、もし、主体を見えている世界そのものと考えるならば、これは必然的な帰結だ。前方向は常に一点で同一視されている。実は、この同一視されざるを得ないという事実に微小領域へと一気にワープする通路が開かれているのだ。
いつも言ってることだが繰り返し言おう。今、図のようにモノを中心にその周囲を巡ってみる。すると、モノの中心点の背後にあると想像されている空間の奥行き方向はすべてその中心点と一致して見えていることが分かる。つまり、モノの背後を天球面の彼方とすると、それらはすべてモノの中心点と一致してしまうということなのだ。ここでは何の矛盾もなく無限大=無限小が成り立っている。そして、おそらく、この同一視されることがナブラ∇ = ( ∂/∂x, ∂/∂y, ∂/∂z )という微分演算子の本質的意味だろう。∇とはヘブライ語の竪琴の意味から来ているらしい。まさに天と地の間に張られた弦という意味にピッタリだ。ヌースでいうところの人間の外面、すなわち無意識の主体領域とは、こうした存在の竪琴の弦によって結ばれた〈微分化=差異化〉の位置なのである。
世界はマリョーシカ人形のように極大世界を極小世界の中に映し込んでいる。ヘーゲルの世界精神とライプニッツのモナドを接続させること。それは4次元の知覚認識によって可能となるはずだ。そこでは帝国的な俯瞰の視線が、ものの見事にアルケーの空間へと反転を起こし、肥大化したコギトはコギトであることを止める。君には大空から流れ始めたこの逆光の弦楽が聞こえるか。生と死を分つ境界はまもなく破られる。
8月 29 2006
空間-コミュニケーション、そして倫理
僕らは空間に対してあまりに無頓着だ。空間は単なる現象を包括する3次元の巨大なコンテナなどではない。空間を考察するには身体との関連なくしては無理だ。空間はそれ自体では何ものでもない。空間を能動的なものに変容させるのは、ただ身体のみである。
身体によって空間に方向が生まれる。空間に3次元の方向づけをできるのも身体があるゆえのことだ。その意味では、モノに方向付けられた空間よりも、身体に方向づけられた空間の方がはるかに高次元的だと考えられる。厳密に言えば、モノには前後・左右・上下などない。それを決定するのは身体なのである。身体にとっての前後・左右・上下は絶対的である。たとえ重力から解放されようが、僕らが世界と接するのは「前」である。こうした前を3次元空間内の次元概念で表すことは不可能だ。それこそ空間と身体の結びつきを深く考察していくならば、宇宙の創造原理にまで達するに違いない。身体に刻まれた襞と空間に内在する襞はそれこそ同じ源泉を持っている。
しかし、困ったことに、僕らには空間に内在させられたデリケートな襞が見えない。襞とは意識のことでもある。意識の力はこの空間の中を無限数の薄膜の襞をたなびかせるように流動している。風の流れの中にも君と僕はいる。植物の光合成の中にも君と僕がいる。地下の深いところで、一見、凍り付いたかのように見える鉱物の結晶の中にも君や僕がいる。素粒子レベルから銀河団の営みに至るまで、すべての現象世界は君と僕の間で交わされているコミュニケーション機構そのものなのだ。おそらくもうすぐ世界に登場してくるであろう新しい思考様式は、その様子を事細かに描写していくことになるだろう。
襞の最終形態はほかでもない。人間の身体である。それは神の神殿と言ってもいい。その聖-場所において、神の思考は二つのものを結実させている。男と女だ。男と女という存在は、神の思考を持ってしても、決して一つに統合され得ない残余がある、ということの証でもある。その残余にすべての聖性は起源を持っている。
不完全さなしには完全は生まれない。いや、不完全さを含むがゆえに完全なのだ。「二なるもの」とはそうした完全性の象徴である。この「二なるもの」において矛盾が生まれ、そして、この矛盾の相即が「わたし」と「あなた」を生む。それゆえに、神の思考は必ずや倫理的なものを対象としなければならない。すべての思考がどのみち神を巡る思考に帰一するのであれば、倫理を欠いた思考は思考とは呼べないからだ。ここでいう倫理的思考とは、すべての前提に肯定(Yes,)を置く思考のことである。というのも、最初にあるのは「あること=Yes,」であり、「ないこと=No,」ではないからだ。ないことが始まりであれば、世界は存在しない。「在る」ことがあり、そこから反動として無=否定の精神が芽生える。反動はあくまでも付帯的なものである。だから僕が君と向かい合ったとき、僕は、君との関係を親愛の呼びかけでスタートさせなければならない。それが倫理的な生の在り方というものだ。この摂理が壊れれば世界も滅ぶ。いや宇宙が滅ぶと言っていい。
By kohsen • 01_ヌーソロジー • 2 • Tags: 素粒子